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【読書レビュー】発現(阿部 智里)


■あらすじ

「おかしなものが見える」。
憔悴しきった姿で、兄が実家に戻ってきた。
大学生のさつきは、心の病だと信じて兄を気遣うが、そのうち自分の眼にも咲き乱れる彼岸花と少女が映りはじめる。
これは本当に病なのか、それとも――
昭和と平成、二つの時代をまたいで繋がる「恐怖」の正体とは?
戦慄の長編小説。中島京子氏との対談収録。


■感想

阿部 智里さんの小説は、随分と前に読んだ『烏に単は似合わない』から2冊目となります。
独特の不気味さを描く作家さんという印象が残っており、本作はあらすじにも惹かれて購入しました。

本作、表向きはジャパニーズホラーの顔をしています。

昭和の時代に、愛しい妻と娘の3人暮らしで幸せに生きていた男が突然身投げをして死んだ。
しかもその男は、まるで何かに追われているように走り出してから飛び降りたのだという。

そして平成に入り、これまた愛しい妻と娘の3人暮らしで幸せに生きていた主人公の兄が突然痩せこけて実家に戻ってきた。
しかも兄もまた、まるで何かに追われているように『見えない何か』の存在を仄めかす。

時を同じくして主人公もまた、他人には見えない、けれど自分の目には鮮明に映し出される少女に追われ始める。

主人公たちを追いかけるその存在は何なのか。
なぜ主人公たちだけに見えてしまうのか。

その鍵は、昭和の時代に遡る――というのが、大まかな物語の流れです。

実際に物語を掘り下げてみると、戦争の悲惨さ、極限状態での人間の判断力、過去の出来事に対する心理的負担や記憶、心の病と診断された家族を持つ者の心の内など、人間の心理描写も丁寧に描かれていました。

文章はとても読みやすいですし、物語もリズムよく進むので、楽しく読めます。

とはいえ最後はハッピーエンドでは終わりませんし、少々の苦さを残したままホラー小説として結末を迎えるので、そういうところがお好みでない方にはお勧めできない作品ではありました。