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【読書レビュー】人間に向いてない(黒澤 いづみ)

■あらすじ

とある若者の間で流行する奇病、異形性変異症候群(ミュータント・シンドローム)にかかり、一夜にしておぞましい芋虫に変貌した息子 優一。
それは母 美晴の、悩める日々の始まりでもあった。
夫の無理解。失われる正気。理解不能な子に向ける、その眼差しの中の盲点。
一体この病の正体は。
嫌悪感の中に感動を描いてみせた稀代のメフィスト賞受賞作。


■感想

タイトルのインパクトが強くて思わず手に取ってしまいました。
黒澤 いづみさんの作品は初めて読みます。

あらすじを読んだところ、人間が異形に変異するというSF要素もあることが分かり、興味を持って購入しました。

まず言いたいのは、異形に変異した人間の成れの果ての姿がグロテスクです。
あと、全体的に重い話なので、心が健康なときに読んでください。

上記2つが大丈夫であれば、本作が魅せるじんわりと広がるおもしろさの虜になります。笑

舞台は現代の日本。
ある日突然人間が異形になるという奇病が流行っていましたが、その対象は概ねニートや引きこもりの若者であるという傾向が見られていました。
そんな彼らが異形になったところで『日本社会に与える影響は少ない』と判断した政府は、変異した人間は即座に死亡したものとみなす、という義務を定めます。

そんな中、引きこもりの息子・優一が変異してしまった母・美晴は、息子のおぞましい姿に怯えながらも社会的な息子の死を受け入れることができませんでした。
反対に、引きこもりの息子を疎ましく思っていた父親はすぐに息子の死を受け入れ、変異した息子を『処分』しようとする始末。

そんな夫に冷めた気持ちを抱きながらも異形の息子との生活を続けていく美晴が、精神的な気づきを経て、母親として成長していくというようなストーリーとなっています。

美晴の心情がメインでストーリーは進みますが、その中でも息子・優一の心情や、他に異形となってしまったらしい若者たちの心情、人間を異形に変えた"らしき"存在の心情も描かれています。
そしてこれがまたストーリーに深みを与えてくれるわけですね。

本作が発行されたのは世界中が新型コロナウイルスで大混乱に陥っていた時期ということもあり、本作の解説を担当された東 えりかさんの解説にも熱がこもっているように見えました。

主観と客観では、こんなにも感じ方が違う。
例え家族であっても、お互いが自立した人間であることを認める。
『正しさ』は、その時々の状況によって常に変化しうるものである。

そんなことを全力で、熱く、痛みを持って教えてくれるような作品でした。