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【読書レビュー】ガラスの麒麟(加納 朋子)


■あらすじ

「あたし殺されたの。もっと生きていたかったのに」。
通り魔に襲われた十七歳の女子高生 安藤麻衣子。
美しく、聡明で、幸せそうに見えた彼女の内面に隠されていた心の闇から紡ぎ出される六つの物語。
少女たちの危ういまでに繊細な心のふるえを温かな視線で描く、感動の連作ミステリ。
日本推理作家協会賞受賞作。


■感想

『同じ殺されるのなら、いっそ今すぐここで殺されてしまった方がいい。』
ストーリーの最初で、十七歳の女子高生・麻衣子はそう考えて殺されてしまいました。

この麻衣子の死をきっかけに、世の中の理不尽な死や暴力に翻弄されながらも前向きに生きて行こうとする周囲の人々の心情が描かれた作品でした。

たしかにミステリー要素(登場人物の1人に安楽椅子探偵じみた感性がある)はあるものの、ミステリー小説というよりはどちらかというとヒューマンドラマの方に比重があるかなといった印象です。
特に麻衣子を主軸とした思春期の子たちの心理描写が、大人と子どもの合間で不安定に揺れ動いている様子が丁寧に描かれていたのが良かったと思います。

一方でわたしにとっては、「人の心はどうやら想像している以上に繊細らしい」という感想しか得られない作品でもありました。

現実問題、何か事件があったとしても第三者が加害者や被害者の心情を理解し切ることはできません。
そのスタンスが本作では貫かれている感じがしており、「分からないものは分からない。第三者が一方的にその気持ちを推し測るだけ」というスタイルでストーリーが描かれているところがあります。
短編で見ると満足感のあるストーリーなのですが、各短編の繋がりを経て全体を見ると、どこかストーリーが締まり切っていない、ふわっとしたまま終わったなという印象を受けました。

おそらくわたしのミステリー小説としての期待値が高すぎたと言いましょうか、「これからミステリー小説を読むぞ!」の気持ちで挑んだためにそうなってしまったのではないかなと考えています。
なのでこれから読まれる方は、「ヒューマンドラマにミステリー要素が絡んでいるらしいよ」くらいの気持ちで読んでもらうのがいいのかもしれません。

ちなみに加納 朋子さんの作品は初めて読みまして、少なくとも本作が出版された時点では、加納さんのミステリーは珍しい作品だったみたいですね。
作家さんの珍しい作風の作品を読めたというのは、うれしいことですね。