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【読書レビュー】クロスファイア(宮部 みゆき)


■あらすじ

【上巻】
青木淳子は常人にはない力を持って生まれた。
念じるだけですべてを燃やす念力放火能力(パイロキネシス)――。
ある夜、瀕死の男性を"始末"しようとしている若者四人を目撃した淳子は、瞬時に三人を焼殺する。
しかし一人は逃走。淳子は息絶えた男性に誓う。
「必ず、仇はとってあげるから」
正義とは何か!?裁きとは何か!?
哀しき「スーパーヒロイン」の死闘を圧倒的筆致で描く!

【下巻】
連続焼殺事件を追う警視庁の石津ちか子・牧原両刑事。
事件の背後に"念力放火能力者"の存在を感じた二人は、過去の事件関係者を洗い、ついに淳子の存在に気付く……。
さらに、"ガーディアン"を名乗る自警組織が、一連の"処刑"は淳子によるものと察知!
彼らは巧妙に淳子を組織に誘う。
胸に迫る孤独!痛切な愛!
正義の向こう側に何を見つけるのか――!?


■感想

念力放火能力者(パイロキネシス)が登場するというファンタジー要素があるにも関わらず、それを『日常』に溶け込ませて違和感なく読み進められる。
そうして下巻で結末に向かって加速する登場人物たちの心模様に、読む手が読まらなくなってしまう。
本作はそんな作品でした。

宮部みゆきならではの、心情描写の丁寧さが為せるヒューマンドラマですね。
上巻では本作の主人公・青木淳子が何の慈悲もなく人を焼殺していくので、一種の狂気さえ感じさせる冷酷さに読み進めることを躊躇う方もいるのではないかと思います。

常人にはない力を持つがゆえに、自ら孤独に生きてきた淳子。
自らを『装填された銃』と称する彼女は、ある事件を追うことで様々な人と触れ合い、『武器』から『一人の人間』として徐々に変化を見せていきます。

孤独を分け合う存在を得て『一人の人間』となった淳子が何を得たのか。
ストーリーの最後は一般的には哀しくて切ない、それでもどこかハッピーエンドとも思える結末が、淳子を待ち構えているのでした。

そして本作は淳子の変化を描く一方で、過去の不審な焼殺事件から今もなお追い続け、全くの透明人間の状態から青木淳子という人物に辿り着いた石津ちか子刑事と牧原刑事。
淳子とこの2人の刑事の物語が交互に描かれていくのですが、それがよりドラマ性を高めているように思えます。

何より石津刑事のいい意味での凡庸さが、本作にとって最高のスパイスになっています。
下手をすればストーリーの重さだけが目立つ作品となり得たところを、石津刑事の存在がうまく昇華して見事なヒューマンドラマに変化させていると思いました。

上下巻に渡る物語なので読み通すには少々時間がかかりますが、それでも読んでみて損はない作品だと思います。
軽い調子で読み進められる作品ではないので、そこだけ要注意ですね。