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【読書レビュー】プラスティック(井上 夢人)


■あらすじ

54個の文書ファイルが収められたフロッピイがある。
冒頭の文書に記録されていたのは、出張中の夫の帰りを待つ間に奇妙な出来事に遭遇した主婦・向井洵子が書きこんだ日記だった。
その日記こそが、アイデンティティーをきしませ崩壊させる導火線となる!
謎が謎を呼ぶ深遠な井上ワールドの傑作ミステリー。


■感想

井上 夢人さんの作品は何冊か既読済みです。
安心して読める作家さんなので、井上さんの作品をまだ読んだことのない方にはぜひ読んでみてほしいと思いつつ。

本作、プラスティック。
ミステリー慣れしている人だと、しばらく読んだところで大まかなトリックは予想がつく内容かと思います。

それでも読み進められるのは、思わず先を読んでしまうのは、井上さんの執筆力が為せる業なんでしょう。
トリックは予想通りでしたが、そこに行きつくまでのストーリーがおもしろかったです。

自分の知らない『向井洵子』の痕跡に恐怖する、主婦の向井洵子。
一連の出来事を俯瞰して見続けている、傍観者の高幡英世。
向井洵子が書いた日記の文書ファイルが収められたフロッピイから謎解きを始める、小説家の奥村恭輔。
惚れた女のために汚れ役を担う、気性の荒い藤本幹也。
気弱でいつも誰かの尻ぬぐいをさせられている、若尾茉莉子。
幼少期の体験から自分を表に出すことをしなくなった、本多初美。

6人の登場人物の視点でストーリーが語られていくのですが、例えトリックがなんとなく分かっていたとしても、その謎が謎を呼ぶ構成にじわじわと先の展開が気になる気持ちを植え付けられていきました。

そしてストーリーの最後。
本作を読んでいる自分自身(読者)に投げかけられた文章。
ストーリーにのめり込めばのめり込むほど自分のアイデンティティーがゆらぐ、おもしろい締め方だと思いました。

余談ですがストーリーを読み終えたあとに田中 博さんによる解説を読んで、題名『プラスティック』の意味を理解して納得しました。
本作、ミステリー好きにはおすすめしたい作品です。