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【読書レビュー】花の下にて春死なむ(北森 鴻)


■あらすじ

年老いた俳人・片岡草魚が、自分の部屋でひっそりと死んだ。
その窓辺に咲いた季節はずれの桜が、さらなる事件の真相を語る表題作をはじめ、気の利いたビアバー「香菜里屋」のマスター・工藤が、謎と人生の悲哀を解き明かす全六編の連作ミステリー。
第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門受賞作


■感想

北森 鴻さんの作品は、『メビウス・レター』以来の2作目となります。
本作は安楽椅子探偵に類するミステリー小説なのですが、とても雰囲気のある作品でした。

1編目「花の下にて春死なむ」
年老いた俳人・草魚の隠された過去と、その死の間際に咲いた季節はずれの桜が教えてくれる隠された事件とは?

2編目「家族写真」
駅に設置された誰でも貸し借りができる本棚。
そこにあるいくつかの小説の挟まれたモノクロの家族写真。
誰が誰に向けてメッセージを送っているのか?

3編目「終の棲み家」
『終の棲み家』と名付けたとある夫婦の写真で一躍有名になった写真家の男。
個展が開かれることになった際、宣伝用のポスターが全て剥がされてしまう。
ポスターを剥がしたのは誰か?モデルとなった夫婦はどうなったのか?

4編目「殺人者の赤い手」
赤い手の魔人が小学生を襲うという会談話。
かつて倒れる幼い弟の傍で見た赤い手の魔人の正体とは?

5編目「七皿は多すぎる」
スナックで聞こえて来た中年男と若い男の話し声。
中年男が、回転寿司屋で鮪ばかり食べる男の話を詳細に話す理由とは?

6編目「魚も交わり」
草魚が死去してから2年後、今は亡きとある女性の日記に若かりし頃の草魚と関わりのあったと思わせる文字が見つかる。
果たして本当に草魚と関わりがあったのか?
草魚とその女性が知り合ったきっかけは何だったのか?

各短編はそれぞれに繋がりがあり、全てがビアバー・香菜里屋で明らかになっていきます。

中にはあくまでも『想像』でしかないという謎解きもあり、本格的な謎解きというよりは、よりヒューマンドラマに重きを置いたエンタテインメントとしてのミステリーという印象でした。
なので読む人によっては展開が強引だ、ご都合主義だ、と思われるところもあるかもしれません。

人の心情に沿った雰囲気のあるミステリーを読みたい方にはお勧めの作品です。

また本作は、『香菜里屋シリーズ』として同じ設定で他にも作品が出ているようなので、そちらも機会があれば読んでみたいと思います。