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【読書レビュー】疑薬(鏑木 蓮)


■あらすじ

十年前に失明した母と暮らす生稲怜花は、ある日矢島という記者に声をかけられる。
老人ホームで起きたインフルエンザの集団感染。
その死亡者に処方されていたのは、母の治療に使われたのと同じ新薬「シキミリンβ」だというのだ。
失明の原因は――まさか。
製薬会社やマスコミ、数多の謀略が交差する圧巻のミステリー。


■感想

鏑木 蓮さんの作品は初めて読みます(たぶん)。
作品のタイトルから見て取れる通り、ジャンルは医療ミステリーですね。
副作用が少ない画期的な新薬として認可された『シキミリンβ』に、実は公にされていない重篤な症状を引き起こす副作用が見込まれるのではないか。
その疑惑がベースとなったストーリーなので、タイトルの『疑薬』といったところでしょうか。

ストーリーの序盤は、惹き込み力がありました。
これからどうなるのか、出てくる登場人物たちがそれぞれどんな腹積もりで動いているのか。
実にミステリーらしい流れです。

ところが中盤では、中弛みがけっこうありました。
医療ミステリーは専門的な背景があるので、わたしとしては慎重に読み進めていかなくてはなりません。
その上、ストーリー展開がぐっと遅くなり、同じところを何度も行ったり来たりしている流れに、ちょっと心が折れそうになる。

登場人物は多いのですが、あまり人柄やその背景が描かれておらず(少なくともわたしには読み込めなかった)、その心の機微が全体的に掴みにくい。

そうしてようやく終盤に差し掛かった頃にストーリーは一気に加速し、再び面白くなってきたかと思えば、結末としてしっくり来ず。

厳密にいうと白黒はっきりと分けられない結末を迎え、それ自体は悪くないし嫌いじゃないのですが、なぜその過程に至ったか登場人物たちの感情の動きが読めず共感できませんでした。
先述した登場人物たちの心の機微が全体的に掴みにくいの影響ですね、これは。

おもしろいところは確かにあるし、題材として難しい医療ミステリーを書き上げる鏑木さんの技術はすごいと思います。
読む人が変わればまた、わたしとは違った感想になるのだとは思いますが…

個人的には人にオススメできる本ではないかなと思いました。
でも、鏑木さんの他の作品で読みやすいものがあれば、読んでみたいとは思えました。