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【読書レビュー】蜂蜜秘密(小路 幸也)


■あらすじ

古くから大切に伝えられてきた<奇跡の蜂蜜>を守るため、自動車も使わず、火薬も制限し、さまざまな掟に従って暮らす<ポロウ村>。
蜂蜜の秘密にかかわる名家の一人娘サリーは、不思議な転校生レオと出会う。
だが、彼がやって来たのと時を同じくして、奇妙な出来事が……。
美しい山あいの村を舞台に描く傑作ファンタジー


■感想

小路 幸也さんの作品は初読みとなります。
表紙のデザインがクラシカルで素敵だなと思い手に取ってみると、あらすじも好みな感じ。
時代から切り離されたような環境の村で起きる奇妙な出来事を描いたファンタジー作品だなんて、読むしかないですよね。笑

昨今『スローライフ』なんて言葉をよく耳にしますが、本作で登場するポロウ村はまさしくそんな感じ。

コーンのパンにミルクに卵焼きに豚のベーコン。
ラディッシュにトマトにイチジクにプラム。
そしてたっぷりのいろんな色のハチミツ。

シンプルな食材なのに豪勢な朝食の描写から始まり、朝早くから農作業に精を出す村人たちや、通り掛かった荷馬車に乗せてもらって村の中を移動する女の子。
文字を読むだけで、自然豊かで穏やかな村の中でのびのびと過ごす人々の光景が目に浮かんできます。

しかしそんな明るいイメージとは反対に、ポロウ村にはさまざまな『掟』が存在していました。
村の豊かな環境を維持するためと納得できる掟もあれば、そもそも疑問を持つことすら許さないというような雰囲気の定めた理由が分からない掟もある。
ずっとポロウ村で暮らしてきた人々が気づかなかった、気づけないようにされていた『謎』が、不思議な転校生・レオの来訪で徐々に解き明かされていくというお話でした。

とてもファンタジー然としたお話にも関わらず、作品の中で『謎』となるものの根源は『欲望』。
急に現実を突きつけられたような気持ちになるので、このギャップの好き嫌いは少々分かれそうな印象がありました。
(ちなみにわたしはそのギャップに驚いたものの、肯定的な気持ちで読めたタイプでした。)

あと、本作を読んでいると「蜂蜜が食べた~い!」ってなります。笑

パンにかけても良し、ミルクに混ぜても良し、フルーツにかけても良し。
あの、喉にぐっとくる感じの濃厚な甘さが恋しくなりました。笑

それから本作の重要人物となる主人公のサリー、レオ、そしてジャック。
この3人の関係がとても素敵で、優しい気持ちになる作品でした。