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【読書レビュー】僕は君を殺せない(長谷川 夕)


■あらすじ

夏、クラスメートの代わりにミステリーツアーに参加し、最悪の連続猟奇殺人を目の当たりにした『おれ』。
最近、周囲で葬式が相次いでいる『僕』。
――一見、接点のないように見える二人の少年の独白は、思いがけない点で結びつく……!!

すべての始まりは、廃遊園地にただよう、幼女の霊の噂……?


■感想

タイトルと表紙のイラストに惹かれて購入した作品です。
背表紙に「誰も想像しない驚愕のラストへ。二度読み必至、新感覚ミステリー!!」と煽ってあったのも購入に至った要因のひとつですね。

長谷川 夕さんの作品は初見となります。
本作は『僕は君を殺せない』『Aさん』『春の遺書』の三作が収録されていました。

結論からいうと、それなりにおもしろかった、といったところでしょうか。
ただ、背表紙の煽り文句は煽りすぎなので、これがなければ読み終わた感想も少しは変わっていた気がします。



『僕は君を殺せない』。
『おれ』と『僕』は誰のことを指しているのかという謎解きなのでしょうが、良くも悪くもそれだけでした。

謎解きが途中から解けたとて、その二人に特に共感も興味も持てず。
小説の中ではあるものの『一人の人間』として感情移入しながら読むことはできず、最後まで『そういう設定の登場人物』という視点で読む終えることとなりました。

でも景色やシーンの描写は丁寧で分かりやすく、頭の中でイメージはしやすかったので読みやすい作品でした。



『Aさん』。
ストーリー展開の驚き度でいうと、三作の中ではこちらが一番驚くのではないでしょうか。

お風呂を掃除しようとしている『わたし』の視点から物語は始まるのですが、以下の描写を読んだ時点で結末が推測できてしまいました。

ベージュのタイル、目地のピンク色の上を、白い泡が流れていきます。
…(中略)…
きれいになったはずと期待をして、汲んであったお湯を流しました。
けれど目地に、汚れがまだ残っていました。



ミステリー小説ばっかり読んでいるからこそ推測ができてしまったのかもしれませんが、あとは自分の推測が正しいか読み進めるだけ。

結果は推測通りの結末ではありましたが、そこに至るまでの『わたし』の子どもの頃の話は、この物語を盛り上げる大事な要素としてよく書かれているなと感心しました。



『春の遺書』。
切ないファンタジー小説、といったところでしょうか。
特に驚くような展開はないものの、三作の中では一番物語として完成された作品のように思えました。



そもそも出版元である集英社オレンジ文庫は、ラノベの売りがメインかと記憶しています。
それを踏まえると、本作は十分におもしろい作品だったと思います。

本格的なミステリーを期待して読むとがっかりする割合が大きいかなと思うので、読み手の最初の期待値によって印象が変わる作品だと思いました。