ゆるぽぽ帳

趣味の本やらゲームやら

【読書レビュー】十二人の手紙(井上 ひさし)


■あらすじ

キャバレーのホステスになった修道女の身も心もボロボロの手紙、上京して主人の毒牙にかかった家出少女が弟に送る手紙など、手紙だけが物語る笑いと哀しみがいっぱいの人生ドラマ。


■感想

これはすごい。
帯に『圧巻の超絶技巧』と書いてありましたが、決して過大評価ではない作品でした。

主に誰かが誰かに宛てた手紙(中には、出産届や婚姻届などの公式文書形式もあります)という形式で描かれていくストーリー。
手紙形式だからこそ書き手(登場人物)の心情が色濃く表れているように感じられ、奇妙な没入感を感じることができました。

タイトル通り12人の主役の手紙によって12編の物語が書かれているのですが、その全てに人間ドラマがぎゅっと詰め込まれています。
それもただ単に登場人物の人生が描かれているだけではなく、その人生がいかに波乱万丈なことか。
その波乱万丈さが書き方を手紙形式とするだけで、なぜかミステリー小説となる不思議さ。

先述でちらっと触れましたが、ほぼ公式文書形式だけで人ひとりの人生を魅せた短編『赤い手』は圧倒されました。

もちろん読み手に一定の『読み慣れ』が必要そうではありますが、こんな小説は初めて読んだのでとても衝撃的でした。

あと『エピローグ』として書かれた短編は、今までの登場人物たちが一堂に会し、いわゆるアフターストーリーのようなお話となっています。
これがまた、まとめ方が良いというのか、わたし的には小気味よい終わり方でした。

強いて難点を上げるとするなら、全体的にドロドロしたストーリーで、よく耳にする昔の男女観がベースとなっています。
本作が書かれたのが1978年とのことなので、時代背景を考えればまあ納得できますかね。

なので端的に言うと『昭和の愛憎劇』という言葉に忌避感を感じる方には向かない小説だと思います。

とはいえ読書好きにはお勧めしたい作品なので、機会があればぜひ読んでもらいたいです!