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【読書レビュー】父からの手紙(小杉 健治)


■あらすじ

家族を捨て、阿久津伸吉は失踪した。
しかし、残された子供、麻美子と伸吾の元には、誕生日ごとに父からの手紙が届いた。

十年が経ち、結婚を控えた麻美子を不幸が襲う。
婚約者が死体で発見され、弟が容疑者として逮捕されたのだ。

姉弟の直面した危機に、隠された父の驚くべき真実が明らかにされてゆく。
完璧なミステリー仕立ての中に、人と人との強い絆を描く感動作!


■感想

小杉 健治さんの作品は初めて読みます。
読み終わったあとは、まるで映画1本を観終えたような満足さがあり、派手さはないものの大作を読んだな、という気持ちになりました。

毎年の誕生日に届く父からの手紙。
そこには失踪する前から変わらない愛情の詰まった言葉が綴られています。

なのに、なぜ父は自分たち家族を捨てたのか?
自分たちを捨ててまで、父は何を選んだのか?

そんな複雑な想いが、本作の主人公である麻美子の胸中にはずっとわだかまっていました。

そうして麻美子は両親の離婚の影響もあってか、打算的な結婚を目前に控えます。
しかし婚約者は慌てるようにデートを終えたあと、死体となって発見されてしまいました。

ここから麻美子の人生には、不幸と呼べる出来事が続きます。

実の父のように慕っていた家族ぐるみの付き合いがあった知人男性の自殺。
密かに麻美子が恋心を抱いていた、父の自殺で自暴自棄になったその男性の息子。
麻美子の婚約者殺害の容疑者となった弟。
知人男性の死と息子の逮捕の心労で倒れてしまった母。

こんなにも姉弟が過酷な状況にさらされているのに、なぜ父は姿を現してくれないのか?
今もなおあんなにも自分たちを愛してくれている父ならば、姿を現さないはずがない。

父のもとに辿り着けば今の状況の打開策が見えてくるかもしれないと、麻美子は父親探しを始めます。

そうして出会ったのは秋山 圭一という、もう1人の主人公です。
圭一は殺人を犯した罪で懲役9年の刑を受けており、少し前に刑期を終えて刑務所から出てきたばかりの男性でした。
そして圭一は圭一で、自分の犯した罪のきっかけをきちんと受け入れるため、人探しをしていたのです。

麻美子と圭一の視点で進んでいくストーリー。
それが2人の出会いをきっかけに1つになり、驚きの結末に繋がるといったストーリーでした。

ミステリー小説ながらも、家族愛も描かれた作品となっております。
正直に言うと失踪した父・伸吉の気持ちは共感できませんが、自分が守らなくちゃと思う愛しい家族がいて、どうしたらいいか分からなくなるほどに追い込まれてしまったら、伸吉のような行動を取ってしまうのかもしれません。

読んで損はない作品だと思いました。