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【読書レビュー】バイリンガル(高林 さわ)


■目次


1. あらすじ

アメリカで三十年前に起きた母娘誘拐事件。
複数の死亡者が出たその凄惨な事件の舞台となった大学町を避けるように、永島聡子は日本に帰ってきた。
事件の生き残りだった当時三歳のニーナと同じ名前の女性を、一人息子の武頼が自宅に連れて帰ったことから聡子は解決した事件の真相に三十年ぶりに向き合うことに――。


2. 感想

高林 さわさんの作品は、本作が初めてとなります。
『暗号を駆使した傑作本格推理小説』とのことですが、なるほど。
たしかに暗号だし、トリックは今までにない着眼点でおもしろかったです。
しかしながら、トリックがおもしろかったからこそ他の惜しさが悪目立ちしてしまったような気がする作品でした。

ストーリーは現在と過去が交互に展開されながら進んでいきます。
誘拐事件に遭遇した当事者と関係者の視点で徐々に謎が明かされるのですが、わたしは抵抗なく読むことができました。
謎解きは丁寧に書かれていた印象で、分かりやすかったと思います。

当時解決したはずの事件が、三十年の時を経て、真実に辿り着く。

うん、おもしろい展開でした。

ストーリーを語るメインは聡子なのですが、彼女のキャラについては好き嫌いが別れそうな気がします。
「一人息子を守らなければ」という母としての面がなかなか強く、ここに少々癖を感じる性格の女性ですね。
ちなみに最後で、なぜ聡子がこんなにも息子を守ろうとするのか、一番の大きな理由が明かされます。
この理由にも驚きが含まれているので、おもしろいポイントですね。

さて、ここから惜しいと思ったポイントをいくつか挙げていきます。

まず、登場人物たちの会話文。
立派な大人たちがときどき妙な日本語になるのですが、これはどういう意図だったんでしょうか。。。
バイリンガルがゆえの少々日本語が伝えない感じを表現?
英語で話している言葉をあえて文中では日本語で書いてますよを表現?
だとしても、他のシーンでは正しく書かれていたりするので統一感はない。
急に不思議な文章が出てくるので、これにはわたしも含め戸惑った人が多いと思いました。

そして次に、殺されたとある人物のダイイングメッセージ『=-+』に関する描写の少なさ。
メッセージを発見した際に「なんだこれは?」となるのですが、それ以降は特段ストーリーに出てくることはなく。
いかにも意味ありげに残しているのに、登場人物たちがそれに触れなさすぎるなと思いました。
(後に意味はちゃんと回収されます。)

最後に大きなポイントとして、謎解きのメインとなるトリックの扱いです。
つまるところトリックは言語障害だったのですが、これが「読者のミスリードを誘って楽しませよう」というよりは、「作者のタイミングで謎解きしたいからヒントを与えない」という風に感じられる書き方だと感じました。

誘拐事件はアメリカで起きているので、謎解きのヒントとなる会話は全て英語でやり取りされています。
トリックの言語障害も英語の中で発生しているものなのです。
にも関わらず、ヒントの会話は日本語で書かれています。
そう、日本語で書かれた文章では、言語障害のトリックは消え去ってしまうのです。

とはいえ言語障害のトリックはなかなか複雑で、わたしも含め馴染みがない人には難しいのでヒントの会話を日本語で書いても問題ないと言えば問題ないのでしょう。
ですがミステリー、推理小説の醍醐味である「読者が自分なりに謎解きをしながら読み進める」という楽しみを奪っているように感じられました。
これが、一番の惜しかったポイントだったかなと思っています。

しかしながらトリックは斬新で、少なくとも二度は驚きの展開を迎えるストーリーで、読み応えのある作品だったと思います。
その驚きはストーリー終盤に起き、それまでは淡々とストーリーが進むので飽きてしまう方もいるかもしれませんが、ぜひ少々粘って読んでみていただいてもいいと思える作品でした。