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【読書レビュー】消滅(恩田 陸)

 

■目次


1. あらすじ

■上巻
超大型台風接近中の日本。
国際空港の入管で突如11人が別室に連行された。
時間だけが経過し焦燥する彼ら。
大規模な通信障害で機器は使用不能
その中の一人の女が「当局はこの中にテロ首謀者がいると見ている。それを皆さんに見つけ出していただきたい」と言った。
女は高性能AIを持つヒューマノイドだった。
10人は恐怖に慄きながら推理を開始する。

■下巻
北米からの帰国者に感染力の高い新型肺炎の疑いが生じる。
連行は細菌兵器ゆえの隔離、ヒューマノイド対応だったのか。
テロ集団はなぜ「破壊」ではなく「消滅」という用語を使うのか。
様々な憶測が渦巻くが依然、首謀者が誰か掴めない。
やがて孤絶した空港に近づく高潮の危険。
隔離された10人の忍耐と疲労が限界を超え「消滅」が近づいた時、爆発音が!


2. 感想

恩田 陸さんの作品は今までもそれなりに読んでいて、毎回楽しませていただいています。
本作ももちろん楽しく読ませていただきましたが、恩田 陸さんの他の作品と比べるとあまり印象に残らない作品だったなあというのが本音です。

閉ざされた空間。
そこに取り残された老若男女の容疑者たち。
テロ首謀者は誰かとお互いを疑いながら全員で推理し合う。

設定としては王道と言っても良く、それゆえにどんなドラマが繰り広げられるのか期待せずにはいられません。

そして本作は登場人物が多く、物語は何人かの視点で語られていきます。
ヘッドフォン男、鳥の巣頭の男、ガラガラ声の女などなど・・・
語られる視点が変わるというのは読者のミスリードを招きやすく、思わず注意深く読んでしまいます。

普段からミステリーや推理小説などに触れていて、ついつい斜に構えて読んでしまったせいでしょう。
物語は終盤に至ってもなお飛び抜けて驚くような展開は見せず、端的にいうと単調なまま終わりを迎えてしまいました。

結果的にわたしとしては、本作は『ほのぼの人間ドラマ』のジャンルのように感じました。
(とはいえ、『人間ドラマ』と呼ぶには登場人物たちに感情移入できるほどの描写は少なかったのかなとも思います。)

さて、ここまでで「あまり面白くなかったのかな?」と思わせるような感想になってしまったかと思いますが、決してそんなことはありません。

大規模な通信障害と入管審査を通れずなぜか別室に呼ばれてしまうという物語の幕開け。
国際的なお尋ね者の登場で高まる期待感。
人間そっくりの精密なヒューマノイドへの近未来・SF感。
迫りくる自然の驚異によってもたらされる孤絶感。
バイオテロを思わせる症状への恐怖感。

物語の展開はゆっくりながらも、「次はどうなるんだろう?」と読者の興味を引くポイントがあり、ついついページを読み進めてしまいます。
また、文章も会話や登場人物の心の声をベースに進んでいくので、まるで漫画を読んでいるような読みやすさもあります。

あとは、物語に含まれている近未来的な要素が、それほど遠い未来ではなさそうなところも現実とリンクしやすくてよかったです。
(それほど遠い未来ではないから『近未来』というのですが、それよりももっと身近な感じがするという意味ですね。)

恩田 陸さんの作品をいくつか読んでいる方で、ちょっと変わり種、不思議な感じの作品を読んでみたいという方には良い作品かなと思います。
(恩田 陸さんの作品を未読の方にとっては、最初に読む本として本作は恩田さんの良さが伝え切れない感じがあるのであまりお勧めしません!)