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【読書レビュー】がらくた屋と月の夜話(谷 瑞恵)


■あらすじ

仕事も恋も上手くいかないつき子は、ある晩、ガラクタばかりの骨董品屋に迷い込む。
そこは古道具に秘められた"物語"を売る店だった。
未亡人を未来へと導いた時刻表、母と娘の拗れた関係を解いたレース、居場所のない少女に特等席を与えた椅子……。
人生の落し物を探して、今日も訳ありのお客が訪れる。
つき子もまた、ある指輪を探していた。

■感想

『思い出のとき修理します』を書いていらっしゃる谷 瑞恵さんの作品。
代表作は存じ上げていましたが未読なので、谷さんの作品は本作『がらくた屋と月の夜話』が初読みとなります。

あらすじに惹かれて本作を購入。
古道具に秘められた物語という言葉がとてもロマンチックに感じられて読んでみたら、本当にその通りでした。

トーマス・クック社のタイムテーブル。
メヘレンのレース。
離島の小さな教会にあったチャーチチェア。
ジャックという犬の首輪につけられていたドッグタグ。
地球儀と月を模した模造石のトワエモアの指輪。
ドイツにいる伝説の動物・ヴォルペルティンガーの剥製。

6話からなる短編で、それぞれの古道具とその古道具がかつて時を共に過ごした人々との物語が語られていきます。

今となっては、実質的には役に立たないのかもしれない。価値がないのかもしれない。
それでもまた新しい人の手に渡って、その人とまた新しい物語を紡いでいく。

古いものや大切にされたものには魂が宿るという話も聞きますが、本作はそんな話に通じるものがあるストーリーでした。

そうして短編全体に渡って、古道具の物語を聞くたびに少しずつ自分自身を見つめ直す主人公のつき子。
つき子の何かが大きく変わるというわけではありませんが、ゆっくりと変化の兆しを見せ始めるつき子の成長模様は、古道具の物語というストーリーにぴったりだと思いました。

余談ですが、『ブロカント』と『トワエモア』。
本作に出てきた言葉で初めて意味を知ったのですが、とても綺麗な言葉だなと思いました。

ブロカントは、アンティークとは違って商品自体に金銭的な価値があるわけではないけれど、大切に使い古されたもの。
本作のタイトルにもある通り、まさしく『美しいガラクタ』なんですね。

トワエモアは、フランス語で『貴方と私』を意味する言葉で、2つの宝石を持つジュエリー。
写真を調べてみましたけど、なんだこれ。ロマンチックすぎる。

本作は、ロマンチックな不思議な話を読みたい気分のときにぴったりな作品でした。