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【読書レビュー】美しいこと(木原 音瀬)

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■目次


1. あらすじ

別れた女の服を着て、夜の町を歩き男の視線を浴びる快感にはまった松岡。
ある夜、行きずりの男にに乱暴された松岡を救ったのは、会社の冴えない先輩・寛末だった。
寛末の純粋な愛に惹かれた松岡は「女装」のまま逢瀬を重ね、告白を受ける。


2. 感想

まず言わせてください。
タイトル負けしないくらい、主人公の松岡の在り方が人間の泥臭いところも含めて美しかったです。

ちなみに本作は同性愛(お互いに自分が男性だと認識している者同士)の話です。
わたしは何気に同性愛をメインにした小説を初めて読んだのですが、全然抵抗なく普通の恋愛小説として読めました。

そもそも特に同性愛に忌避感があるわけでもなく、脇役として同性愛者が登場している作品を読んだりはしていました。

そして木原 音瀬さんはBL小説界では有名な方だったんですね。
本作をきっかけにそのお名前をしっかりと覚えましたよ!

冒頭の主人公の『美しさ』の話に戻るのですが、ざっくり以下のような点にわたしは美しさを覚えました。
・主人公が女装をしているときの「自分が誰よりも一番綺麗」と輝いている姿
・女装の秘密を抱えて葛藤しながらも、寛末の惜しみない愛に幸せを感じている姿
・寛末を信じて女装を告白したあとの現実に打ちひしがれながらも、寛末の愛を取り戻そうと足掻いている姿
・嫉妬や羨望に身を焦がしながらも、それでも周囲の人を思いやる健気な姿
・寛末の大事にしていた時計を握り締めて許しを乞う姿
・最後の精一杯の虚勢を崩そうとする寛末に願い乞う姿

ちなみに女装を告白してからの寛末は態度が180度変わるので、「主人公はこの男のどこが好きなの?」という気持ちになりました。

でもその「好きになるのは理屈じゃない」っていうことも含めて、とても良い恋愛小説です。



恋愛ものでよく目にする『惚れた方の負け』が、痛いくらい切なく描写されています。
またそれに起因する嫉妬や羨望、あり得ないと分かっていてもしてしまう期待など、人間の浅ましさも繊細に描かれていて、その書きっぷりがまた美しい。

思わず先が気になって1日で読んでしまうくらいに読みやすく、また心を惹きつける小説でした。

ただ、性的な描写(他の小説でも度々ある割りと詳細な描写)があるので、同性愛がメインの物語ということも含めて、ちょっと苦手意識がある方はご留意いただくのがよいかなと思いました。