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【読書レビュー】月の裏側(恩田 陸)


■目次


1. あらすじ

九州の水郷都市・箭納倉(やなくら)。
ここで三件の失踪事件が相次いだ。
消えたのはいずれも掘割に面した日本家屋に住む老女だったが、不思議なことに、じきにひょっこり戻ってきたのだ、記憶を喪失したまま。
まさか宇宙人による誘拐か、新興宗教による洗脳か、それとも?
事件に興味を持った元大学教授・協一郎らは<人間もどき>の存在に気づく…。

2. 感想

本作は、恩田ワールドを楽しめる作品となっています。
穏やかな不思議さがある一方でぞくっとする怖さがあり、異生物(いうなればエイリアン)の存在も匂わせる…。
世にも奇妙な物語~SF ver.~』と言えば、なんとなく雰囲気は伝わりますでしょうか?

ストーリーは、塚崎 多聞が三隅 協一郎に呼ばれて箭納倉に降り立つところから始まります。

協一郎が多聞を呼び出したのは、箭納倉で起きた3件の失踪事件について謎解きゲームを始めるためでした。
このあたりではまだ、ストーリーは現代的なミステリー小説を思わせる内容となっています。

そして謎解きメンバーに新聞記者・高安 則久と協一郎の娘で多聞の大学時代の後輩・藍子が加わるのですが、それぞれが今まで口に出さなかった箭納倉に対する『違和感』を共有し合います。

さらにそこに協一郎の飼い猫・白雨がどこからか拾ってきた『耳もどき』『指もどき』を見つけたことをきっかけに、ストーリーはジャパニーズホラーとSFの様子を見せ始めます。

現代ミステリーかと思わせてからのホラー&SF要素。
これは心惹かれる展開でしかありません。

協一郎ら4人は失踪事件について、ひとつの仮説を立てます。

――箭納倉には昔から水に似た生命体がいて、それが人間をさらって、その人間によく似せた『人間もどき』を作って返す。

荒唐無稽な仮説ながらも、それであれば今まで感じていた『違和感』が腑に落ちる。
そんな状況の中、4人は各々のルートで仮説が正しいという確信を得ます。

その翌日には箭納倉から4人以外の全ての生物が一斉に姿を消すという終末世界のような展開となり、その後は孤立した4人の感情の揺れを描写しながら終わりに向かってストーリーがテンポよく進みます。

ちなみにストーリーの終わりには、この不思議な現象に対する明確な答えは用意されていません。
協一郎ら4人全員が『人間もどき』なのか、そうではないのか、これも読者の想像に任せる形となっています。

ジャパニーズホラーの醍醐味といえる『ぞくっ』とする恐怖感と、恩田 陸さんによる読者の感情を煽るような書きっぷり…。
恩田 陸さんの小説が好きな方にとっては、読み応えがある作品だと思います。
(逆に明快なストーリー展開がお好きな方には、読み終わってもすっきりしない感じが残るかもしれませんね。)

余談ですが、『月の裏側』というタイトルについて。
本作を読み終えたあとだと、いろいろ憶測してしまう絶妙なタイトルだと思いました。