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【読書レビュー】屍者の帝国(伊藤 計劃×円城 塔)

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■目次


1. あらすじ

屍者復活の技術が全欧に普及した十九世紀末、医学生ワトソンは大英帝国の諜報員となり、アフガニスタンに潜入。
その奥地で彼を待ち受けていた屍者の国の王カラマーゾフより渾身の依頼を受け、「ヴィクターの手記」と最初の使者ザ・ワンを追い求めて世界を駆ける。


2. 感想

伊藤 計劃さんの本は『ハーモニー』を、円城 塔さんの本は初めて読みます。
この本を読んだ直後の感想は、「ところどころに面白さはあるものの、なかなか読みにくかったなあ」でした。

まず、この本は伊藤 計劃さんと円城 塔さんの共作というわけではありません。
伊藤 計劃さんは『屍者の帝国』の出版に向けて資料の準備や試し書きを始めた頃に早世されてしまいました。
そうして残された作品を惜しんだ出版社の方が、伊藤 計劃さんと同世代・同時期にデビューした作家の円城 塔さんに、『屍者の帝国』の続きの執筆を依頼したのが本作が出版に至った経緯のようです。

文庫版のあとがきに円城 塔さんが『この続きを書くにあたって、「伊藤計劃ならばどう書くか」と問いかけることはしなかった。(中略)伊藤計劃ならどう考えるかではなく、伊藤計劃の書いたものを通じて得たものから、自分ならどう考えることができるのかが問題だ。』と書かれています。

このあとがきの通り本作は、伊藤 計劃さんが準備していた『屍者の帝国』を自分なりに噛み砕いて飲み込んだ円城 塔さんの『屍者の帝国』です。
なので「伊藤 計劃さんの作品だ」と思って読み始めると、違和感を感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。

さて、本作はプロローグが伊藤 計劃さんの執筆、第一部以降が円城 塔さんの執筆となっているそうなのですが、これがまた作家が違うという違和感なしにするっとプロローグから読み進められます。
これは円城 塔さんだからこそ為せた技なのかもしれません。

生者と死者の違いは何か。
生きながら生者にされた死者は、生者なのか死者なのか。
生者を生者たらしめると言われているものは、本当に死者には存在しないのか。

初読でわたしが認識した本作のメインとなる謎は上記になります。
(細かく言い出すともう少しあるのですが、なるべくネタバレしないように割愛します。)

そしてわたしの上記の謎に対する答えは「生者と屍者の境は曖昧で、どちらもどちらになり得る」です。
(結局それって答えになってないんじゃないの?というのは、そっと心にしまっておいてください。。。)

あと2回くらい読み直せば、もう少し自分なりの理解が深まるかもしれませんが…ちょっと繰り返し読む気力は出ないですね。

余談ですが、物語後半で最初の使者ザ・ワンが『菌株』の話をした際に「瀬名 秀明さんの『パラサイト・イヴ』と似てるな」とぼんやり思いました。
物語が似ているという話ではなく、その存在の考え方が似ている、という意味ですね。
パラサイト・イヴ』も面白い作品でしたので、ご興味がありましたらぜひ読んでみてください。

あ、それからもうひとつ。
本作は実在の人物や他作品の登場人物などが出てくるのですが、これがわたしはとても楽しかったです。
そして、こういう作品をパスティーシュ小説と呼ぶことも初めて知りました。
勉強になったなあ。