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【読書レビュー】昨夜のカレー、明日のパン(木皿 泉)


■あらすじ

7年前、25歳で死んでしまった一樹。
遺された嫁・テツコと今も一緒に暮らす一樹の父・ギフが、テツコの恋人・岩井さんや一樹の幼馴染みなど、周囲の人物と関わりながらゆるゆるとその死を受け入れていく感動作。
本屋大賞第二位&山本周五郎賞にもノミネートされた、人気夫婦脚本家による初の小説。
書き下ろし短編「ひっつき虫」収録!


■感想

木皿 泉さんの小説は初読みとなります。
なんでもこちらの作家さん、ご夫婦で1人の脚本家としてご活躍の方々でした。

脚本家として手掛けられた作品を調べてみると、見たことのあるテレビドラマもありました。
そういう意味では全くの初めて、というわけではないですね。

本作は夫であり息子である一樹を失くしてしまったテツコとギフ(義父)を中心に、周囲の人々の心模様を描いた作品です。

一樹という繋がりをなくしてしまえば、赤の他人も同然なテツコとギフ。
ギフが長年暮らす古い家で二人暮らしを続ける2人は、傍から見れば奇妙に映ることもあるのでしょう。

それでもお互いに失ったものの思い出を追いかけながら、淡々を生きていく日々。
一樹が死んでから『何も変わらない』というぬるま湯のような生活に浸ってはいるものの、周りは少しずつ確実に変化していく。

そんな中でテツコやギフ、その周囲の人々は「それでいいんだ」と気づくことで、停滞していた生活から少しずつ動き出そうとする。

大事件が起きるわけでもなく、ドキドキハラハラするような展開があるわけでもなく、ただ日常を生きていく中でちょっとした気づきに出会う。

わたしにとっては、繰り返す毎日の生活でいつの間にか見えなくなってしまった小さな大切なことを思い出させてくれる作品でした。

物語のベースには『一樹の死』という重いものがありますが物語自体に悲観さはなく、ゆっくりと変化していくことを前向きに捉えられ、読後は優しい気持ちになれました。