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【読書レビュー】ある男(平野 啓一郎)


■あらすじ

弁護士の城戸はかつての依頼者・里枝から奇妙な相談を受ける。
彼女は離婚を経験後、子どもを連れ故郷に戻り「大祐」と再婚。
幸せな家庭を築いていたが、ある日突然夫が事故で命を落とす。
悲しみに暮れるなか、「大祐」が全くの別人だという衝撃の事実が……。
愛にとって過去とは何か?
人間存在の根源に触れる読売文学賞受賞作。


■感想

平野 啓一郎さんの作品は初めて読みます。
あらすじに書かれた『夫が全くの別人』という言葉に衝撃を受け、さらには興味を引かれ、購入した作品となります。

愛した人の身分や語られた過去が全て偽りだったと知ったら、身分や過去に共感して生まれた愛はどうなるのか。
その人を『その人』たらしめるものは一体何なのか。
そんなことを考えさせられる作品でした。

戸籍交換という罪に焦点を当てつつも、その罪を暴くというよりはなぜそうしたのか、交換後はどうだったのかという人間の心理的な視点に重きを置いて描かれています。
そのため壮大な物語というよりは、誰しもが持つ側面(一部)にそっと触れるような物語でした。

文章の読みやすさは十分あるのですが、戸籍交換のところはやや複雑なので混乱しやすいかもしれません。
また人間の側面を描くという都合上、最後は綺麗さっぱり終わるというものではなく、読み手によって感じ方や捉え方が変わる結末だなと思いました。

主人公の弁護士・城戸にも抱えている過去がありそれに触れる描写が出てきますが、ここについてはちょっと好みが別れそうな気がします。
(設定についてもそうですし、城戸の過去の描写が蛇足だ、という意見もありそうだなと思いまして。)

全体としてはおもしろく読めましたし、読んでよかったなと思える作品でした。