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【読書レビュー】佳代のキッチン(原 宏一)


■あらすじ

十五年前に失踪した両親を捜すため、持ち込まれた食材で料理を作る「移動調理屋」を始めた佳代。
キッチンワゴンで両親ゆかりの地を巡るうち、一風変わった注文やちょっとした事件も舞い込むように。
「ふわたま」「鮨天」「魚介めし」――もつれた謎と、人々の心を解くヒントは料理の中に?
そして、徐々に明らかになる両親の秘密を追い、佳代が辿り着いた場所とは?


■感想

おいしいごはんが出てくる小説って、定期的に読みたくなりますよね。

ということで今回読んだのは『佳代のキッチン』。
原 宏一さんの小説は初めて読みます。

主人公・佳代が中学の卒業間際、突如として家に帰ってこなくった両親。
決まっていた高校進学を諦め、卒業後は給食センターで働き出します。

5歳下の弟・和馬と質素に暮らしながらも、姉弟の頑張りもあって、和馬は四年制大学を卒業。
和馬の就職を見届けた佳代はそれからさらに頑張って働いて500万円を貯め、古びたキッチンワゴンで『移動調理屋』を営業しながら両親探しを始める、というのが物語の始まりです。

もうこの時点で姉弟の絆が強いことが見てとれるのですが、両親探しをしている間もこの姉弟の連携プレイをたびたび目にすることができます。

そして何より、『佳代のキッチン』と名付けられた『移動調理屋』で出来上がる料理がこれまたおいしそうでたまらない。
オリジナルのレシピだったり料理だったりするので、想像力が掻き立てられます。

ふんわりとふくらんだスフレのような卵料理の『ふわたま』。
残り物のフライドチキンとフレンチフライで作る『親子丼』。
前日の冷え固まった鮨を天ぷらにする『鮨天』。

ああ。絶対おいしいやん。

両親の情報を聞きつけ、東京、神奈川、京都、島根、山形、北海道。
キッチンワゴンで日本中を巡る佳代は、ついに両親へと繋がる有力な情報を耳にします。

しかしその結末は、佳代の想像とは違う形で幕を下ろすことになるのでした。

三者からの情報で佳代たちの両親がどんな人だったかを知る形になりますが、両親の人物像についてはやや好き嫌いが別れそうな印象です。

本作はおいしいごはんと、佳代の心の成長物語として、読みやすくて素敵な作品でした。