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【読書レビュー】悪の教典(貴志 祐介)


■目次


1. あらすじ

■上巻
晨光学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAをも虜にしていた。
しかし彼は、邪魔者は躊躇いなく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。
学校という性善説に基づくシステムに、サイコパスが紛れこんだとき――。

■下巻
圧倒的人気を誇る教師、ハスミンこと蓮実聖司は問題解決のために裏で巧妙な細工と犯罪を重ねていた。
三人の生徒が蓮実の真の貌に気づくが時すでに遅く、学園祭の準備に集まったクラスを襲う、血塗られた恐怖の一夜。
蓮実による狂気の殺戮が始まった!


2. 感想

うーん!これぞエンタテイメント!
貴志 祐介さんの作品は面白いと思う作品が多いので、好きな作家さんの一人です。

とにかくハスミンのサイコパスっぷりが気持ちいいですね。
(もちろんエンタテイメントだと分かっているからこその感想です!)

上巻の冒頭で、ハスミンの住む家は屋根が一部破損していて『恒久的に応急補修してあった』と描写されています。
最初はなんとなく読み進めていたのですが、ハスミンのサイコパスっぷりが最高潮を迎えようとしたとき、ふとこの一文を思い出したんです。
『恒久的に応急補修』とは、まさにハスミンそのもののことではないか、と。

ハスミンは子どもの頃から極めて高い知性を発揮していましたが、共感性が著しく欠如していました。
そして中学生のとき、本当に心からハスミンのことを気に掛ける教師の言葉により、彼はまたひとつ学びます。
より他人を自分が思うままにコントロールする術のひとつとして、共感性の欠如を補うこと――つまり感情を模倣するということを知ったのです。

これはまさに、共感性欠如という欠陥を感情の模倣という形で恒久的に応急補修していると言えるのではないでしょうか?

この思いに至ったとき、貴志 祐介さんという書き手の手腕に心が震えました。
(もちろん、他の感想もあると思います。ちなみに文春文庫版の解説では、三池崇史さんも同じ一文について触れられています!)

それから作中ではハスミンの異常な残虐性の描写ばかりだというのに、なぜか魅力的な人物に思えて仕方がない。
これが貴志 祐介さんの文章力の為せる業なのか、人物の作り込みが素晴らしいからなのか…うん、両方ですね!
あと英語教師っていうのも妙にマッチしてて、なんだかある種の色っぽささえも感じました。
(ほんの少し、淡くハスミンの感情が揺れるシーンがあり、それでハスミンの人間らしさを思い出せるのも良いスパイスでした。)

そして他にも忘れてはいけない、ハスミンが担当する2年4組の生徒たち。
それぞれに個性がちゃんとあって、作中での役割もしっかりあって、それがまたストーリーに華を添えるんですよね。

本当に圧巻と言える作品だと思います。

暴力的、残虐なシーンが多いので、そういうのが苦手な方には読むのはおすすめしません。
ですが読んでみて損はないと思うので、気になった方はぜひ読んでいただければと思います!
(ちなみに私は映画の方は観たことがないので、機会があれば観てみようと思います。ハスミン役が伊藤 英明さん…うん、違和感ない!)