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【読書レビュー】空の中(有川 浩)


■あらすじ

200X年、謎の航空機事故が相次ぎ、メーカーの担当者と生き残った自衛隊パイロットは調査のために高空へ飛んだ。
高度2万、事故に共通するその空域で彼らが見つけた秘密とは?
一方地上では、子供たちが海辺で不思議な生物を拾う。
大人と子供が見つけた2つの秘密が出会うとき、日本に、人類に降りかかる前代未聞の奇妙な危機とは――すべての本読みが胸躍らせる、未曾有のスペクタクルエンタテインメント!!


■感想

有川 浩さんの自衛隊三部作シリーズ!
塩の街』『海の底』と続き、ようやく本作『空の中』も読破しました!

今回は、表向きは高空に潜む未知との遭遇といったストーリーですが、その裏側で活躍する登場人物たちがすごくイイ。
他の自衛隊三部作シリーズの登場人物たちも魅力的ではありますが、本作はそれ以上に素敵な人々が描かれていました。

人類滅亡の脅威を孕む未知の生物との交渉を一手に担うメーカー担当者・高巳。
彼には国を守りたいなんて大それた意思はなく、ただ未知の生物に初めて接触したから、交渉能力があるからと、重すぎる責任を背負う立場となってしまいます。
それでも飛行機が好きだから、好きな人にもう一度空を飛んでほしいから。
表向きは飄々としながらも、辛い本音は胸の内に秘めて頑張る高巳の姿は、人間味溢れるヒーローといった感じでかっこいいです。

それから高巳と一緒に初めて未知の生物に接触した自衛隊パイロット・武田。
自衛隊という男社会の中で必死に侮られまいと戦ってきた彼女は、最初は無意識に自分の性別について過剰に反応し、僻む傾向さえありました。
しかし元来の素直で実直な性格もあり、高巳に良い影響を受けて丸くなっていきます。
そうして高巳の心を支える戦うヒロイン的なポジションで、恋愛小説として読者の心をくすぐってきます。

他にも、分離(正確には本体からの剥離)した未知の生物を海辺で拾った高校生の瞬と佳江。
今まで優等生だった瞬は父親の死をきっかけに、その大人でも子供でもない思考を巡らせ、誤った道に進んでいきます。
そんな瞬の変化に気付きながらも見て見ぬふりを続け、結果そのことを悔いるようになる佳江。
しかし佳江もまたただ守られるだけのヒロインではなく、瞬を誤った道から連れ戻そうと自ら迎えに行きます。

そして人としてまだまだ未熟な瞬と佳江を陰ながら支える、2人を孫のように可愛がっている宮じい。
年を重ねたからこその感じられる言動の重さひとつひとつに、瞬や佳江は支えられ、自分たちの過ちと対峙できるようになります。

最後に結果的に宮じいの言葉に救われることになる高校生の真帆。
なまじ頭の良さやカリスマ性があり、また彼女が置かれた状況のせいで急いで大人にならざるを得なかった少女。
無理やり自分を納得させるための歪んだ理論で、周囲を巻き込みながらも決して正しくはない道を突き進んでいきますが、折れ方が分からずついに自らで自らを傷つけるような行動を取ってしまいます。
そこを宮じいが救うという流れですね。

自衛隊三部作シリーズでは、わたしは本作が一番好きですね。
他の方のレビューを見ると、同じような方が多いみたいでした。

ご興味があればぜひ読んでみていただければと思います!