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【読書レビュー】月への梯子(樋口 有介)


■目次


1. あらすじ

知能は小学生程度だが、死んだ母親が遺してくれた小さなアパート『幸福荘』の管理人として、平和に暮らしていたボクさんこと福田幸男、四十歳。
ところがある日、アパートで殺人事件が起きたことをきっかけに、ボクさんとその周辺に、驚くべき変化が起こり始める……。


2. 感想

樋口 有介さんの作品は初めて読みます。
タイトルがまず素敵ですね。
『月への梯子』なんて、ロマンチックだと思いませんか?

そしてあらすじを読んでみると、どうやらミステリー小説っぽい。
これは読むしかないと思い、購入しました。

知的障害を持ち、母親の道徳的な教訓を守りながらアパートの管理人業を真摯に務めるボクさん。
そんなボクさんに敬意を払い、親しく過ごすアパートや近隣の住民たち。

アパートの名前通り『幸福』が溢れる光景から物語は始まり、なんだかほのぼのとした気持ちで読み進めていきます。

そんな中、その幸福を揺らがすように発生したアパートでの殺人事件。
偶然にも住民の遺体を発見し、不運にも転落事故に遭ってしまったボクさん。

そこからボクさんを取り巻く世界は一変します。

まるで堰を切ったように溢れるボクさんの記憶や知識と、誰もいなくなってしまったアパートの住民たち。
突如として回復を見せる知能を持て余しながら、ボクさんはアパートの住民たちについてその背景を、ひいては事件の真相を知っていきます。

イメージとしては、ボクさんが探偵役で、幸福荘殺人事件の担当となった女刑事が助手役って感じですかね。

そして事件が一段落ついて、また新しく『幸福荘』で幸せな日々を過ごし始めるボクさんに訪れる、体の奥から突き上げるような激しい頭痛。
知能が回復する過程でボクさんは度々頭痛に悩まされていましたが、今回の頭痛は意識を失うほど深刻なものでした。

そこから物語の終わりにかけて語られるストーリーは、間違いなく読者をあっと驚かせる展開になっていると思います。

夢か現か、はたまた非科学的な事象だったのか。

明確に「こういうことなんですよ」と語られて終わりを迎える物語ではないため、読後に不思議さは残りますが、それでも素敵なミステリー小説だったとわたしは思いました。

本作は最後に少し不思議な体験がありつつも、トリックや動機に重きをおかない、気軽に読めるミステリー小説といったところでしょうか。
樋口さんの他の作品も、ぜひ読んでみたいです!