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【読書レビュー】石黒くんに春は来ない(武田 綾乃)


■目次


1. あらすじ

学校の女王・京香に告白し振られた石黒くんが意識不明の重体で発見された。
クラス全員に失恋をバラされたショックによる自殺未遂かと思われたが、学校は知らん顔。
しかし半年後、名ばかりの偽善グループライン『石黒くんを待つ会』に、病院で眠り続けているはずの本人が参加し大混乱に。
"復活"は復讐の合図!?
弱肉強食だった教室の生態系が崩れ出す。


2. 感想

本作はまずタイトルに惹かれましたねー。
『春は来ない』というタイトルを見て最初に思ったのは、その春が『恋愛』なのか『季節』なのかどちらなんだろうってことでしたね。
もしくは本作の中で定義された別の『春』なのか…。

また、あらすじを読むと学校という狭い空間での少年少女にスポットを当てた作品のようだったので、ヒューマンドラマが読めるかなと思い購入した次第です。

読んでみると飛び抜けて驚くような展開があったわけではないですが、小難しいことは書かれていないので読みやすく、また登場人物たちの若者らしいテンポの良い会話のお陰か、とてもするすると読めるストーリーでした。
途中でストーリーが冗長的になるわけでもなく、どの部分も語られるに必要なストーリーで、整理された内容だったように思いました。

ものすごくざっくりまとめるとスクールカーストの話で、そのカーストを覆すというストーリーなのですが、これがリアリティに溢れていました。
学校ならではの閉塞感、『多数』が勝つ世界、大人と子どもの狭間のような年頃であるがゆえの残酷さ、大人への信頼と失望の間での揺らぎ。
恐らく多くの人たちが、一度は感じたりしたことがあるのではないでしょうか?

さらにここ数年の特徴であるネットが普及したがゆえの匿名性と、表には出てこないネット内での言動。
これらの環境の中で、大人と同じように思考できる頭脳を持ちながらも、まだ未成熟な感情を持て余す少年少女たちの生き方がリアルに描写されているように感じました。

武田 綾乃さんの作品は本作が初めてですが、他の作品も読んでみたくなる作家さんですね。
しかも武田さんって、『響け!ユーフォニアム』の作家さんだったんだあ。
読んだことはないですが、わたしも吹奏楽部に所属していたことがあるので、タイトルが気になっていました。
また折を見て、他の武田さんの作品を読んでみたいと思います。

本作は高校生のヒューマンドラマを描きながらもサスペンス要素がスパイス的に含まれているので、少しでも興味をお持ちになった方には、ぜひ読んでみてほしい作品です。