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【読書レビュー】壁の鹿(黒木 渚)


■目次


1. あらすじ

女子高の寄宿舎に暮らす少女タイラ。
鬱陶しい同級生たちから逃れられる唯一の場所「書斎」にこもる彼女に、ある夜、<壁の鹿>から声が聞こえる。
結婚詐欺師、恋に悩む女、剥製職人……彼らの「孤独」に交感する声とは。


2. 感想

正直に言います。
本作は、タイトルと表紙だけを見て買いました!
結果的には買ってよかったと思っています。
黒木 渚さんの著書は初めて読んだのですが、歌手の方なんですね。
ユニークな世界観のあるストーリーだったのは、ご職業と何か関係があったりするのでしょうか。

本作は、タイラ、マシロ、あぐり、はじめ、夢路という、それぞれが何かしらの孤独を抱えた主人公の視点で描かれているのですが、みな一様にして<壁の鹿>と話すことができます。

<壁の鹿>…そう、あの立派な邸宅やらお店やらに飾られている鹿の頭部の剥製です。アレです。

<壁の鹿>にもそれぞれタイプがあり、優しく主人公の背中を押すような鹿もいれば、幼く無邪気な鹿もいる。
<壁の鹿>の声は主人公にしか聞こえないのですが、不思議と主人公と<壁の鹿>は良くも悪くも『馴染む』んですよね。
そしてまた不思議なことに、主人公が孤独から抜け出そうと心構えを変えたとき、<壁の鹿>と話せなくなるんです。

ストーリーの中でも出てくるのですが、<壁の鹿>との対話は、自分自身との対話だったのではないかと、わたしも思っています。

ちなみに各章ごとに主人公は異なっているのですが、全体を通してストーリーは繋がっています。
読み始めは主人公それぞれが自分自身と向き合って少しずつ変わっていく…というような前向きなストーリーかと思いきや、一変。
途中からサスペンス要素が加わり、人間の狂気的な部分が垣間見え、ホラー色が強くなります。
今までそれなりにほのぼのと話が進んでいたので、これには胸が高鳴りましたね。

残酷な描写も含まれているので、苦手な方は要注意な作品でもあります。

何か強い印象を残す作品ではありませんが、作品の一部のどこかがひっそりと頭の片隅に残る。
そんな作品でした。
個性的な作品で面白いと思いましたので、ぜひ興味がある方は読んでみてください。