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【読書レビュー】オライオン飛行(髙樹 のぶ子)


■目次


1. あらすじ

一九三六年、博多の大学病院に勤める看護婦の久美子は、墜落して重傷を負ったフランス人飛行士と出会う。
言葉が通じない二人の間に燃えあがる短くも激しい恋そして別れ。
八十年後、久美子の血を引く二十六歳のあやめは二人を巡る不可解な物語を知る。


2. 感想

髙樹 のぶ子さんの小説は初めて読みます。
率直な意見をお伝えすると、なんだか『惜しい』作品だなというのが一番の感想です。

冒頭の宙の描写と、これから何かが始まりそうな夜間飛行での旅立ち。
わくわくとしたのもつかの間、わたしを置きざりにしてストーリーはぬるっと旅立ちに至った過去を語り出します。

ストーリーは、主人公あやめが旅立つまでの時間と、あやめが想像する八十年前の時間の出来事が交互に書かれながら進みます。
あやめが現代をどのように過ごし、どのように八十年前に想いを馳せるのかが描かれており、結果、主人公がどのような人物なのか分かりやすくなっていたと思います。

あとは、あやめの相棒となる六十六歳の一良との絡みも、考え方や感じ方がお互いに異なっていて噛み合わない感じが出ており、それが主人公を際立たせるポイントになっている気がします。

そうしてよりストーリーに入り込もうとしたときに出てくる、謎の視点での語り出し。
あやめでも一良でも、これまた淡々と出来事だけを伝える第三者ではない、確かに『主観』を持った何者かの存在。(筆者と言っても差し支えないのかも?)
この何者かの語りによって、わたしは急に現実に引き戻され、本作の世界に没入できませんでした。

また、上記で「主人公がどのような人物なのか分かりやすかった」と書きましたが、それは主人公に共感できる、感情移入できるという意味ではありません。
あやめについても、一良についても、その在り方は『理解できる』のですが、『自分事』のようには感じられませんでした。

さらに、本作で謳っている『恋愛ミステリ』についても、なんだか消化不良な印象でした。

以上のことから本作を「惜しい」と評価しましたが、もちろん面白かったところもあります。

フランス人飛行士・アンドレと看護婦・久美子の言葉が通じない恋。
明らかに終わりが見えているにも関わらず、どうしようもなく掻き立てられる感情。
特に『切ない』という感情を久美子がなんとかアンドレに伝えようとする姿は、愚かしいのに美しいとも思いました。

また、久美子の遺品ともいえる懐中時計の謎。
人の目に晒されることのなかったウォッチペーパーの存在も、謎めいていて物語を読み進める良いスパイスになっていたと思います。

残念ながら総合的に見るとわたしの好みには合わない作品でしたが、ストーリーの大筋は素敵なものでした。
何より、実際にあった出来事でこんな作品を書けるという髙樹 のぶ子さんの才能が素晴らしいです。

恋愛小説がお好きな方は、一度読んでみてもいいかもしれませんね。